当サイトのコラム、記念すべき第1号のテーマは、生産性の向上に向けた“自動化”です。

いわゆる「RPA:Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)」が、もしこのイメージ画像のような「レンジでチン♪」のカンタンツールだったなら…。
そう感じていらっしゃるシステム管理者さんは、世界中にどれぐらいいらっしゃるでしょうか?
例えば下記ニュースのような「年間10万時間の作業自動化」が、ITベンダーさんの手を借りなくても実現できるようなツールがあれば、ツール自体は多少お高くなっても、充分元がとれるでしょう。
RPAプロジェクト単体としては、「年間10万時間の作業自動化」を目標に定め、取組みを開始することになりました。この目標を達成するためには全部門を巻き込んでRPAを同時展開していく必要があり、品質を担保しつつもスピード感を持って大規模にRPAを導入・展開していくことが求められたため、社外ベンダーとの協働を実施する方針とし、ダイキン工業と同規模のエンタープライズでRPAツール「UiPath」の短期導入実績のあるTISをRPA導入パートナーに選定しました。
その結果、目標としていた年間10万時間の作業自動化を2022年3月末時点で達成しました。導入効果としては、ロボット化により人間による入力ミスの削減や作業の属人化の解消も着実に進んでおり、全社レベルでの間接業務の効率化や業務変革に貢献しています。そして、単に作業時間が減っただけでなく、空いた時間を高付加価値業務に充てることにもつなげています。しいですか?
遅ればせながら簡単に筆者の自己紹介をさせていただくと、前任地では「システム間データ連携フローの機械化・自動化」を、現任地では「クラウドアプリケーション間のワークフロー自動化」を通じて、日本が労働生産性や一人あたりGDPで先進国の地位から脱落しつつある状況を打破すべく、経済人の一人として自らのジョブに取り組んでいます。
今回は、バブル経済崩壊後の失われた30年の間に、第四次産業革命すなわち「知的労働の機械化・自動化」に乗り遅れてしまった日本が、1990年代後半のITバブル・IT革命を契機にシレっと先行してしまった欧米先進国に追いつき・追い越すための道筋について考えてみたいと思います。
前任地で公開したトピック「RPAを導入しても成果が出せない組織がはき違えている「生産性」というマジックワード」の続編として一部重複があるかと思いますが、こちらがまとめになるように整理・整頓していきたいと思います。
RPA のように高機能だけれども導入・運用が複雑・煩雑な自動化ツールはIT人材や情報システム部門にお任せするとして、bindit:バインドイットなら、ビジネス人材/IT利用者のデスクトップに残っている SaaS:クラウドアプリケーション間の作業フロー自動化を、誰でもカンタンに導入・運用できます。
目次
- 前編 ※本稿
- 売上・利益に貢献しなければ労働生産性は向上しない
- 作業効率と労働生産性を混同すると目標設定を見誤る
- 後編
- 機械化・自動化によって生み出された「時間」を従業員にとっての「付加価値」に変えられるか?
- まとめ
売上・利益に貢献しなければ労働生産性は向上しない

第四次産業革命のテーマ「知的労働の機械化・自動化」について、皆さんの所属組織ではどのように取り組まれてきたでしょうか?
このセクションのイメージ画像は、第三次産業革命のテーマ「生産ラインの機械化・自動化」をキーワードにピックアップしましたが、これがRPAに代表されるような「デスクトップ作業の機械化・自動化」に置き換わることで、欧米先進諸国に遅れてしまった日本も第四次産業革命に追いついていけるものと筆者は捉えております。
そんな産業革命は、人類全体の労働生産性を高めようとするものですが、例えばRPAという単体のITツールを使うことによって、労働生産性まで高められるのかというところが、このセクションのお題であります。
それに対し、いきなり結論めいた見出しになってしまいましたが、RPAを導入して労働生産性が向上した、すなわち単位あたりの「売上」が増えた、できれば「利益」が増えたという成功事例をご存知の方はいらっしゃるでしょうか?
こういう時はやはりGoogle先生に聞いてみましょう。
本稿執筆時点では、検索前に想像していた通りの結果となり、基準が不明な「成功事例」を訴える広告やコンテンツはたくさんあるものの、ブラウザのページ内検索を使っても「売上」や「利益」が増えたというコンテンツは見当たりませんでした。
これをニュース検索に切り替えると、さらに筆者の意図とは遠くかけ離れた検索結果になってしまい、だったら無理して表示しなければいいのにと、検索アルゴリズムの肩に優しく手をそえてあげたくなってしまうのでした。
やはりこちらも残念な結果でしたが、そんな事例を筆者が知らないのは仕方がない、少なくとも日本ではそんな事例がインターネット上に公開されていないのだと改めて理解しました。
そもそもになってしまいますが、皆さんは「労働生産性」をどのように捉えていらっしゃるでしょうか?
- 1時間あたり何個の製品を完成させられるか?
- 1日あたり何枚の振替伝票を入力・確定できるか?
- 1ヶ月あたり何件の企画書を仕上げられるか?
この記事にたどり着かれた賢明な皆さんであれば、例にあげたような「作業生産性」のことを、本稿のお題にした「労働生産性」と捉えていらっしゃる方はいないはずと思います。
前述した「RPAを導入しても成果が出せない組織が~」の冒頭では「付加価値生産性」と記載しましたが、そこに違和感を感じている方がいらっしゃるかもしれませんので、改めて労働生産性の定義について目線合わせをしておきましょう。
労働生産性(Labour productivity)とは、労働力(単位時間当たりの労働投入)1単位に対してどれだけ価値を産めたかを指す。マクロ経済学において部分的生産性とは、一般的に労働生産性のことである。その際、生産量を物的な量で表す場合を特に「物的労働生産性」、金額(付加価値)で表す場合を「付加価値労働生産性」と言い、一般的な経済指標で単に「労働生産性」と言った場合、通常は後者を指す。
はてさて、
付加価値:added value = 利益:profit = 収入:income - 支出:expense
このような数式はすでにご存知とおっしゃる方にとっては釈迦に説法でしょうけれども、経済学や経営学を学んでいる学生さんなどに向けて補足すると、経済人が「労働生産性」と言う時、通常は「作業量」ではなく「付加価値」、すなわち生産活動の結果生み出された利益=手元に残るはずのお金であることは確認しておきたいところです。
例えば、いくら時間あたりの生産量が多くても、それは単に作業効率:物的生産性が高いだけであって、生み出された成果物が売れずに利益も出せず、在庫の山となってしまっては、それこそ企業は倒産してしまうわけですね。
あるいは、「デフレスパイラル」などによって安さだけの価格競争に陥れば、企業が適正な利益を増やすことの困難さは増す一方となり、仕入先の利益はもちろん従業員の賃金を増やすことなど夢のまた夢となってしまうでしょう。
そうなると、経営分野でバズワード化してしまった「SDGs:持続可能な開発目標」などとドヤ顔で言っている場合ではなく、優先して考えるべき生産主体たる仕入先や従業員=国民たちの生活の持続可能性さえ担保できないであろうことも自明の理なのではないでしょうか。
また、上場企業の決算発表の場で次期事業計画などに触れる時、「今後はより付加価値の高い製品・サービスを~」という発言があった場合、私たちの多くは「多機能・高機能」な製品・サービスをイメージしてしまいがちですが、そんな捉え方をしてしまうと「ガラパゴスケータイ」の二の舞になる可能性が高いのではないでしょうか?
ここは威風堂々と、顧客中心主義やデータドリブン経営という個々の組織のカルチャーの中で、「付加価値を高める=顧客満足と高利益を共存させる」という考え方を、日本の経済界におけるあたり前にしていけるとよいのでしょう。
なにせ、GDP総額では世界第3位の日本が、一人あたりGDPになると欧米先進国どころか北欧や東欧、中東や韓国・台湾などの後塵を排してしまい、30位あたりをウロウロする地位になってしまっているのですから。
労働生産性の低い働き方と業務プロセスとしては、「無駄な業務が多い」が全ての役職で最も多く、4割以上を占める。「仕事のデジタル化が進んでいない」「新しいことにチャレンジしにくい組織風土」の割合は、役職が上がるほど高く、意識に差がある。
日本の労働生産性に対する危機感は、経営層で「かなり危機感がある」が41%と最多。一方、管理職・非管理職では「やや危機感がある」が最も多いが「わからない」も目立ち、役職によって温度差がある。産業別では、サービス産業に比べ製造業で危機感がやや強い。
作業効率と労働生産性を混同すると目標設定を見誤る

そんな日本は今、労働生産性のインプット単位あたりでどれぐらいのアウトプット≒付加価値を生み出しているのか、国際比較のレポート記事を見てみましょう。
1.日本の時間当たり労働生産性は、49.5ドル。OECD加盟38カ国中23位。
OECD OECDデータに基づく2020年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は、49.5ドル(5,086円/購買力平価換算)。米国(80.5ドル/8,282円)の6割の水準に相当
2.日本の一人当たり労働生産性は、78,655ドル。OECD加盟38カ国中28位。
2020年の日本の一人当たり労働生産性(就業者一人当たり付加価値)は、78,655ドル(809万円)。ポーランド(79,418ドル/817万円)やエストニア(76,882ドル/791万円)といった東欧・バルト諸国と同水準
3.日本の製造業の労働生産性は、95,852ドル。OECDに加盟する主要31カ国中18位。
2019年の日本の製造業の労働生産性水準(就業者一人当たり付加価値)は、95,852ドル(1,054万円/為替レート換算)。これは米国の65%に相当し、ドイツ(99,007ドル)をやや下回る水準
国際比較はドル建てということですから、1ドル≒130円という2022年6月時点の円安水準で計算してみましょう。
ちなみに円安とは、日本からハワイに行って1ドルのコーラを買うのに、2021年には110円で済んでいたものが1年後の2022年には130円に勝手に値上げされてしまっているということです。
一方、外国で暮らす人が100万円の日本車を輸入して買うのに、2021年は9,090ドル必要だったのに、7,692ドルに大幅値下げされていることになってしまっています。
ということですから、以下の労働生産性はあくまでも現時点の世界共通通貨:ドルありきで考えていただけるとよいでしょう。
- 1時間あたり:49.5ドル=6,435円
- 業種全体の一人あたり:78,655ドル=10,225,150円
- 製造業の一人あたり:95,852ドル=12,460,760円
これは困りました…。
この金額はあくまでも組織が得る付加価値=利益でしょうから、仮に社員一人あたり1千万円/年の利益があるとして、そのうち何割を賃金に回してもらえるか、いわゆる労働分配率はどれぐらいになるのでしょう?
分配率が5割あってもその組織の平均年収は500万円、4割なら400万円、6割なら600万円ということであり、それはあくまでも平均年収ですから、組織の上位層はいいとしても下位層にいる筆者などが、東京のように物価も家賃も高いエリアで子育てしていこうとすることが、どれだけ大変なことなのかもよくわかります。
最近になって再燃している日本政府の「貯蓄から投資へ」といった掛け声など頭の上を通り過ぎていくばかり、それ以前からあった「お金は計画的に使いましょうという道徳教育(?)」が、今さらながらむなしく聞こえてしまいます…。
もとい、
第四次産業革命のテーマである「知的労働の機械化・自動化」は、労働生産性や一人あたりGDPはもちろんのこと、私たちの実感として「以前よりも生活が豊かあるいは楽になった」、「国内でいいから家族で旅行に行けるような余裕ができた」と感じられるようなものにできるか、他人事ではなく自分ゴトとして考えられるようになりたいものだとつくづく感じた次第です。
このセクションをまとめると、RPAのようにデスクトップのルーティン作業を自動化してくれるツールは、あくまでも私たちの作業効率を高めてくれるものであって、組織の労働生産性向上に直接貢献できるようなものではない、ということでいかがでしょうか?
RPA導入の稟議に対して、ROI: Return On Investment/投資対効果へのコミットメントを求められるような場合も、机上の空論:絵餅になりがちな投資収益率ではなく、機械化・自動化によって削減できるであろうデスクトップ作業時間を、オトナとして割り切った目標に掲げてみるのがよいのではないでしょうか。
そして何より、同じ釜の飯を食う組織の仲間たちに「時間的な余裕(心の中のハンドルのアソビ)」が生まれることで生み出される付加価値について、ビジョンを描いてみていただくのはいかがでしょう。
前編は以上とさせていただきますので、ぜひ続きとまとめは後編をご覧ください。
参考文献・ニュース ※適宜追加
- 労働生産性の国際比較2021
- Googleも実践する「20%ルール」とは。、東大大学院教授が提唱する“妄想”の可能性
- TIS、ダイキン工業の全社規模のRPA展開を約1年半で完了し、累計10万時間分の手作業の自動化達成を支援
- 「仕事をなくす仕事をするのがソフトウェアエンジニア」自動化により急速に進む、人間の仕事の置き換え
- 案外うまくいかないRPA、失敗はどう巻き返す? 運用見直す企業が続出のワケ
- その業務、人が時間を費やす必要はありますか? 「自動化」の勘所
- NTTテレワーク原則化 イノベーション維持が課題
- 経産省の「未来人材ビジョン」が賛否両論
- 日本の労働生産性低下の原因と改善策への意識を探る独自調査を実施
- 生産性や創造性の向上のみならず。「幸せに働く社員」がもたらす莫大な利益
- 「仲良く貧乏」を選んだ日本は世界に見放される 1人当たりGDPは約20年前の2位から28位へ後退
- 自動化で避けるべき、よくある10の間違い
- RPAの位置付け、全体最適化のためのツールという企業が増加
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